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私が住む王子には、屋台のラーメン屋が出ている。月曜日から土曜日まで、ほぼ休むことなく「王子小劇場」の前か、「王子シネマ」に店を出している。今から半年ほど前、私は深夜1時も過ぎた頃にぶらりとこの屋台に入った。そこで店のオヤジさんと、しばしの間、話し込んだ。
オヤジさんは若い頃、川口でプラスチックの鋳型を作る工場を経営していたという。当時は、高度経済成長の真っ只中。景気は右肩上りで、オヤジさんの会社も飛ぶ鳥を落とす勢いだったという。
「そりゃあもう、一度飲みに行ったら、数十万円のお金を使うくらい平気だったね。」
オヤジさんは、当時を懐かしむかのように、そう話してくれた。
きっと「若社長」として、肩で風を切りながら、夜の歓楽街を闊歩していたに違いない。
オヤジさんの会社は、その後も設備投資をし、人員を増やし、さらに事業を拡大していった。だが、ちょうどその直後、オイルショックが日本を襲い、事業に暗雲が立ち込め始めた。そして、先行きに不安を感じた銀行から唐突にハシゴを外され、「何もかもを失った」のだという。
その後、「何もする気がなくなった」というオヤジさんは、数年間は何をするでもなく、ブラブラする毎日が続いたという。そんな時、立ち寄ったある屋台の店主に魅入られ、自らも屋台を開こうと決意したと話す。
「俺には偏見があったんだよね。屋台をやる人間なんか、屋台しかできないと思っていたんだ。でも、大企業の管理職だった人とか、一流の人間がたくさんいるんだよ。この世界には。」
屋台を始めたオヤジさんはその後、各地を転々としならがら生計を立て、西は名古屋まで行って店を出していた時期もあったという。そして数年前、再び故郷・川口の近くに戻ってきたそうだ。
かれこれ30~40分くらい話し込んだだろうか。ちょっと懐かしさを覚えるような、あっさり味のラーメンを汁まで飲み干した後、私は屋台を後にした。その後、屋台には行っていないが、オヤジさんは今日も王子に店を出している。