吉祥寺センチメンタル

澤田です。今日、『CUE』の取材で、吉祥寺にある小学校へ取材に行ってきました。まったくの偶然ですが、実は取材先の小学校のすぐ隣に建っていたアパートに、わたしは半年ほど住んでいたことがあるのです。


~超短編私小説:「大塚家具の下にあるパン屋のクロワッサンはうまかった」~

4年ほど前になりますが、わたしは大学を休学し、何のあてもなく吉祥寺でぶらぶらと生活していた時期がありました。週に1・2度、パチンコ屋のアルバイトなぞやっておりましたが、それ以外は部屋に閉じこもっているか、井の頭公園で象の花子を見ながら各種パンをひたすら食べているかで、まったくもって無為以外のなにものでもない生活を送っておりました。当然、象に乗った王女さまなど現れるはずもなく、わたしは駅前にある大塚家具のビルの下で売っているクロワッサンを鳩数羽とともにかじりながら、人生の辛酸をちょびちょびとオトソのように舐めていたのであります。

吉祥寺では、色々なことがありました。体を強くし、軟弱な精神を鍛え直そうと、ボクシングなぞ始めてみましたが、男色嗜好をお持ちになる(と噂の)教官にジャブの打ち方を教えていただき、帰り際に「やめるなよ、コイツぅ~」と、熱っつ熱つの缶入りコーンポタージュスープを手渡されたため、怖気づいたわたしは入会して3ヶ月も経たぬうちに逃亡いたしました。バイト帰りには、泥酔した金髪美女3人に囲まれ、「オニイサン、ドッカ、ツレテッテクダサーイ!!」とせがまれたこともありましたが、動揺したわたしは「No,thankyou」を連発し、またもや逃亡を図りました。逃げる間際、「てか何がサンキューなんだよ」と背後から聞こえてきた非常にナチュラルな日本語が、いまでも忘れられません。

そんなこんなで、わたしは吉祥寺でオモシロ切なく暮らしていたわけでございますが、ある日突然アパートの大家さんが放った

「地盤沈下してるらしいから、出てって」

の一言で、自堕落な生活はあっけなく終わりを告げました。

いまではアパートは取り壊され、跡地には立派な駐車場が建っています。
そして大塚家具が入っていたビルは改装し、ヨドバシカメラに変わっています。
ただ、いっさいは、過ぎていきます。
そんな言葉を思い出しながら、わたしは、昔よく通ったパン屋のクロワッサンの味が無性に恋しくなりました。

その店が、大規模チェーン店であることを知ったのは、つい最近のお話です。

(おわり)

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.con-text.co.jp/mt/mt-tb.cgi/641

comment submit

(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)