零細企業の資金繰り

自営業をやっていくのは大変である。何が大変かと言えば、事務所の維持やら人的なネットワークづくりやら税務会計業務やら色々とあるのだが、より現実的な問題として「資金繰り」が挙げられる。いわゆる「キャッシュフロー」だが、これが回っていかないことには、会社は成り立たない。
うちのような小さな会社でも、年間の外注費は約2000万円にも及ぶ。毎月の平均で換算すると、大よそ180万円前後。多い月は、これが300万円に上ることもある。その多くは、ライターやデザイナーへの支払いなのだが、うちの場合は「業務完了後10日以内」を目安に手続きをしている。これは多くのクリエイターの方々に「早い」と感謝されるが、私としては当たり前のこととして続けていきたいと考えている。
編集プロダクションの中には、クライアントからの振込があってから、ライターやデザイナーに支払う所も多い。だが、それでは「中間管理業」であることを認めているようなものだと思う。プロダクションが「企画屋」であり、クリエイターに仕事を頼んでいるのは出版社ではなくコンテクストであることを裏付ける上でも、「業務完了後10日以内」の支払いは今後も維持したいと考えている。
一方で、クライアントから弊社への振込は、早くて業務完了から1ヵ月後、遅いときには3ヵ月後なんて場合もある。それまでの間、クリエイターへの支払は、弊社が「立て替える」形になる。「立て替える」という表現は適切ではないかもしれないが、少なくともクライアントからの振込があるまでの間、その金額をどこかから工面しなければならないのは事実だ。
この金額が大きくなってくると、私自身の生活費を切り詰めなければならないこともある。実際、昨年の夏には会社の通帳残高が16万円になり、崖っぷちまで追い詰められた。そのときは何とか凌いだものの、本当に肝を冷やす思いだった。
以前、とある取引先に支払処理を忘れられた際「来月でいい?」と、借りたマンガを返すかのように、軽くいなされたことがあった。この時はさほど大した額ではなかったが、要は金額の問題ではない。中小企業の資金繰りは、死活問題である。その振込が1ヵ月遅くなることで、社員に給料を払えず、倒産してしまう会社もあるのだ。「給料の未払い」なんて、多くのサラリーマンにとって縁のない世界かも知れないが、私の身近にはそんな恥ずかしいことをしてしまっている同業者がおり、その煽りを食っている人も多数いる。そうした現実をもっと多くの人が直視する必要がある。
私は多くのクライアントから「金にうるさい」と煙たがられている。開き直るようだが、私自身はそれで構わないと思っているし、先述したようなポリシーが自分の中にあるから、今後も方針を変えるつもりはない。もちろん、金だけで仕事をするわけではないが、仕事をする前にはきちんと金銭交渉をし、見積りを出し、業務内容を確認し、合意を取った上で進める。何度も言うが、これを疎かにしたがために破綻した会社を、私は実際に目の当たりにしているのだ。
請求書の処理ミス一つで、一人の人間を、あるいは一つの家族を不幸に陥れてしまうこともある。そうした危機感をもっと多くの人たちが持つ必要がある。

〔2006.5.10 弊社代表・佐藤明彦〕