文章のユニヴァーサルデザイン

 今年度から新たにスタートした仕事の一つに「ユニヴァーサルデザイン(UD)」のメルマガ制作があります。UDとは、バリアフリーをさらに進化させた概念で、より多くの人が利用可能であるように機器、建築、生活空間などをデザインすることを指します。すなわち、ハンディキャップを持った人を対象とするのではなく、そうした人々も一般の人々も分け隔てなく、万人(Universal)が快適に使えるモノを作ることを目的とした概念なのです。
 日本では、UDを推進する組織として、2003年11月に「国際ユニヴァーサルデザイン協議会(IAUD)」が設立されました。松下電器産業やトヨタ自動車、積水ハウス、大日本印刷、ワコールなど、ジャンルを問わず多くの大企業が会員登録しており、UDの研究と普及を進めています。
 弊社では、1月から同協議会が会員向けに発信するメールマガジンについて、記事のリライト・編集を請け負うことになりました。メルマガは、イベント情報、会員の活動紹介、UDに関するコラムなどの記事で構成されており、なかなか読み応えがあります。弊社の仕事は、原則として「リライト」と「編集」ですが、時に「執筆」をさせていただくこともあります。私は大学時代、障害児教育を専攻していましたが、UDに関しては知らない事柄も多く、日々勉強しながら仕事をさせていただいています。
 この仕事に携わるようになって驚いたのは、協議会に登録している企業のジャンルが実に幅広いことです。UDと言えば、簡単に思い浮かぶのは、「製品」や「居住空間」です。その点、製品メーカーや建築・土建業者が会員登録しているのは分かり易い論理です。でも、この協議会には、印刷会社や食品メーカー、化粧品メーカーなど、一見UDとは関係無さそうな企業も多数参加しています。私は当初、そうした企業がどんなUD製品を製作しているのか、明確にイメージできませんでした。
 でも、この仕事に関わるうちに、「UDはジャンルを問わない」ということを認識させられました。例えば、指先だけで券の種類が分かるギフトカード、開きやすさを意識した製本技術など、ユニークかつアイディアに満ちたUD製品が日本には多々あります。ある専門家の話では、「企業活動をする上でUDと無関係でいられる業種は無い」とのことです。
 そんな中、ふと「編集プロダクションにおけるUDとは何だろうか」と考えてみました。編プロは、形ある「物」を作っているわけではありません。その点、UDとは関係の無いような気がします。でも、専門家が「関連しない業種は無い」と言うからには、UDに絡む「何か」があるのでしょう。
 一つ、思い当たるのは、「読みやすい文章」を書くということです。前述したように、UDは「万人が利用できる」ことをイメージしています。その考えを応用すれば、「万人が読んで理解できる文章」こそが、編集業務におけるUDではないかと思うのです。
 一例を挙げてみましょう。例えば、「弱々しい様子」を表現するとします。一番シンプルなのは「弱い」で、日本語を読める人ならば、誰でも理解できるでしょう。類似表現として、「脆弱な」「軟弱な」などがあります。こうした形容詞の数々も、多くの人はすんなりと理解するに違いありません。「劣弱な」はどうでしょうか。普段あまり文章を読まない人などは、「?」と思う人もいることでしょう。
 こうした形容詞を「使うな」とは言いません。それらの言葉が存在するのは、何らかの存在意義があるからなのでしょうし、使用するに適した場面もあるのだと思います。
 ただ、文章を書く人の中には、難しい表現や形容詞を使うことが、格調の高い、良い文章だと勘違いしている人が少なからずいます。中には、「もっと普通に表現すれば、読みやすくなるのに……」と感じるケースもあります。言ってみれば、自らの手で「理解者」の数を減らしているわけで、大変もったいない話だと思います。
 先のコラムにも書きましたが、弊社のモットーは「分かりやすい文章」です。その考えは、UDの精神にも繋がるものだと胸を張っています。もっとも、私自身が編集者としては恥ずかしいほど「語彙不足」ではあるのですが……。

〔2005.3.1 弊社代表・佐藤明彦〕