モーニング娘。

 数年前、アイドルグループの"モーニング娘"について、とある知り合いと激論を交わしたことがありました。記憶は定かではありませんが、当時は"モーニング娘"がまさに売り出し中、ヒット曲を連発していた頃だったと思います。
 議論の焦点は"モーニング娘がなぜ売れるのか"です。歌唱力が優れているわけでも無い、ルックス的にズバ抜けているわけでも無い、カリスマ性に秀でているわけでも無い"普通の女の子たち"が、何ゆえにこれほどまでにもてはやされるのか。その奇怪な現象について、居酒屋で延々と議論を重ねました。今にして思えば、いい歳をした男二人が公共の場でする会話にしては、少々恥ずかしい内容だった気もします。加えて、互いにアルコールが入っていたこともあり、後半はろくな議論にならず、挙句の果てには「メンバーの名前もろくに言えないヤツが偉そうに論じるな!」と言われ、あえなく撃沈してしまったと記憶しています。
 こんな話をすると、「実に下らん話だ!」と一蹴されそうですが、皆様方も一度、この"下らないテーマ"について、真剣に考えてみてください。意外と説得力のある答えを出すのは難しいものです。
 ポイントとなるのは、やはり"モーニング娘"がオーディションから発生したグループだという点だと、私は思います。周知の通り、このグループは、テレビ東京が主催する番組のオーディションに応募し、最終選考まで残った末に落選した者たちが集まって、温情措置的(?)に売り出されたものでした。それが視聴者の"同情票"を集め、結果としてオーディションの合格者を凌ぐ人気を得てしまったのは、何とも皮肉な現象です。
 でも、単なる"同情票"だけで、人気が長続きするものでしょうか。"普通の女の子"たちが、これだけ長期に渡って人気を維持するには、他にも理由がある筈です。重なるメンバーの入れ替え、一部のメンバーによる小ユニットの編成など、プロデュース面での"売り方"が上手だった点は、言うまでもありません。でも、私はそれ以上に、"手続きの明快さ"が人気のベースにあるような気がします。すなわち、"普通の女の子がアイドルになるまで"を包み隠さずに見せ、本人の性格や真の歌唱力など"ありのまま"の姿を示すことで、多くのファンが親近感を覚え、応援しているのだと思うのです。
 よくよく考えれば、最近のテレビ業界にはこうした"売り方"が数多く見られます。 ドラマのNG大賞、"あいのり"や"ガチンコ"に代表される素人ドキュメントなど、今までテレビでは見せなかった裏側をオープンにし、人間らしさを曝け出すことで、多くの視聴者を獲得しています。バラエティ番組にしても、"ドリフ"や"ひょうきん族"のような"作られたキャラクター"による"作られた笑い"が受けたのは昔の話で、近年は素のままの人間が身近な話題をダシにした"ナチュラルな笑い"が主流となっています。
 さらに言えば、一般的な商品・販売においても、こうした手法が数多く見られます。例えば、"デパ地下"も厨房の様子をガラス張りにして見せることで客の購買欲を誘っていますし、スーパーに並ぶ商品も産地や製法などを明記することで、消費者の信頼を獲得しています。価格破壊の象徴であるユニクロや吉野家がもてはやされるのは、単に安いだけではなく、安い理由(流通・生産の手法)がきちんと消費者に伝わっているからなのです。
 つまり、成熟した現代の視聴者・消費者は、外見の整った既製品を提示するだけでは、購入してくれません。それは、アイドルであろうと、衣服であろうと、牛肉であろうと、同じです。
 同様のことは、出版物に関しても言えますし、企業経営についても言えます。汚い部分を覆い隠し、体裁の良い商品だけを商品棚に並べる企業は、世に多数あります。そうした企業が、すぐに淘汰されるとは言いませんが、決して市場の売れ筋を支配することは無いでしょう。そのヒントこそが"モーニング娘"に隠されている、と言ったら大げさでしょうか。

〔2004.4.1 弊社代表・佐藤明彦〕