年金未払い問題

 最近、政治家の年金未払い問題が、テレビや新聞紙面を賑わせています。事の発端は、社会保険庁がCMで起用していたタレント・江角マキコ氏に、年金未払(未加入)の事実が発覚したことでした。「将来、泣いてもいいわけ?」と、やや威圧感さえ与えるコメントで、保険料の納付を促していた本人が支払っていなかったワケですから、この美味しいネタをマスコミが放っておく筈がありません。本来"言ってはならない人"や"やってはならない人"が、"言ってしまった""やってしまった"ニュースは、教師のわいせつ行為や警察の不祥事と同様、日本人が大好きなゴシップなのです。
 ちょうど、国会で年金改革を審議していたこともあり、その後、この問題は政治家へと飛び火しました。そして、閣僚のうち7名に過去の未納が判明、それを「未納○兄弟」等と皮肉っていた民主党の管直人代表までもが、同様の立場にあることが分かり、厳しい批判の矢面に立たされています。
 はっきり言って、私は政治家が保険料を納めていたか、納めていなかったかという問題に、大して興味がありません。政治家は、私たち国民にとって平等かつ理に適った制度を作ってくれれば良いのであって、その部分で評価されるべきだと考えています。もちろん、「支払うべき」だとは思いますが、未払いの事実に固執するのではなく、改革案の中身に目を向けて厳しいチェックを入れることの方が、重要ではないでしょうか。
 話は変わりますが、これだけ多くの政治家が年金を納めていなかった理由とは何でしょうか。考えられるのは "確信犯"か"過失"かのいずれかです。
 まず、政治家の懐事情を考えれば「払えない」という人はいないでしょう。また、たとえ「払いたくない」と考えていても、未納を糾弾されるリスクを考えれば、支払っておこうと考えるに違いありません。恐らく、未払いの大半は「うっかりしていた」類の過失だと思います。多くの政治家が、「自動的に(国民年金に)切り替わるものと思っていた」とコメントしていましたが、恐らくその言葉に嘘偽りは無いでしょう。
 そう考えると、この国の教育水準の低さたるや何たるか……と愕然とさせられます。会社を辞めれば(あるいは立場が変われば)、"国民年金加入への届出が必要"なんて事実は、本来なら"常識"でなければなりません。それなのに、水準の高い教育を受け、国の政策立案をする立場の人たちが、そんな"基本的事項"を知らなかったのです。
 私の想像するところ、そうした知識が欠落しているのは、恐らく政治家だけではないでしょう。サラリーマンや公務員、子どもを教育する立場にある教師や未払いを批判するマスコミ関係者の中にも、年金の仕組みや手続きの方法を正しく理解できていない人は、多数いるはずです。なぜなら、日本人は個人の事は個人で管理する意識が極めて希薄で、年金や税金を"会社任せ"にする体質が染み付いているからです。
 私は、こうした人々を批判するつもりは全くありませんし、意識改革を呼びかけるつもりもありません。問題は、多くの人たちが生活に必要な知識を得ていない、得られていない社会のシステムなのです。
 とあるお笑いタレントが、「学校の教科を"国語""算数""理科""年金"にしてみては」と言っていましたが、あながち的外れな指摘ではないでしょう。教育とは本来、"実生活で役立つ知識"を身につけるために存在するものと考えれば、現状の学校教育は不成功に終わっていると言わざるを得ません。私自身、"年金"や"税金"を教科にすべきとは言いませんが、各教科の内容をもう少し実生活と結びつける努力や工夫が必要なのは確かでしょう。
 今回、国の中枢部にいる人たちに"生きる力"が不足していることが判明したのですから……。

〔2004.5.1 弊社代表・佐藤明彦〕