「手の内を明かす」ことの大切さ

 私が会社を運営していく上で、1つモットーとしている事があります。それは、常に「手の内を明かしながら」仕事を進めるということです。
 「何のこっちゃ」と思われる方もいるでしょう。簡単に言えば、一緒に仕事をするパートナーに対し、隠し事をせず、何事も正直に伝え、共通認識を図りながら進めていくということです。
 とは言え、会社という組織には、時にして「隠し事」が必要なのも事実です。例えば、自動車メーカーは自社が持つ技術の仕様を好んで公開しませんし、ラーメン屋だって「秘伝のタレ」のレシピは絶対に口外しません。小説家にしても、暖めているアイディアを軽々しく他人に話したりはしないでしょう。
 もちろん、「技術」や「アイディア」の部分で、秘密にせねばならない部分があるのは確かです。でも、そうした一部の秘密を除き、なるべく多くの情報を包み隠さず公開して、多くの方々に会社の内情をご理解いただいた上で一緒に仕事をしたい、というのが私の基本的な考えなのです。特に、編集プロダクションという「ブラックボックス」的な事業を長く続けていく上では、こうした姿勢が大切だと考えています。
 例を挙げてお話しましょう。例えば、弊社が得意先の出版社から単行本の作成を依頼され、「見積りを出して欲しい」と言われたとします。そして、ライターの執筆料を60万円、エディター(編集者)に支払う編集料を10万円、弊社の進行管理・調整等に係る費用を10万円と見積もったとしましょう。合計金額は80万円です。この数字で出版社に見積りを提示すれば、さほど問題はありません。
 しかし、いわゆる「ピンハネ」をする事も可能です。例えば、出版社には「執筆料80万円」と見積もっておいて、実際には60万円でライターに依頼すれば、20万円の儲けが会社にはもたらされます。あるいは、執筆料、編集料等の明細は無しにして「合計100万円」と見積りを出せば、プロダクションは30万円の利益を得られます。
 逆のパターンもあります。例えば、出版社から100万円で頼まれた仕事を50万円でフリーの人に「丸投げ」すれば、プロダクションは何もせずに50万円の利益が得られます。「400字=6000円」で出版社から請けた原稿を「400字=3000円」で依頼することだって可能です。
 こうした手口を用いれば、プロダクションはただふんぞり返っているだけで、私腹を肥やすことができます。恐らく、その手口がすぐにバレることは無いでしょう。そして、世の中にはこうした不相応な「ピンハネ」をしているプロダクションが少なくないのです。
 もちろん、仕事を幾らで発注するかは、その会社の自由であることは事実です。それが何らルール違反でないことも認めます。でも、こうした経営を続ければ、やがて手の内がばれ、会社は信用を失うことになるでしょう。
 大切なのは、手続きを明確化し、互いの共通認識を図ることです。上記のような場合、弊社では出版社に対し、ライターの方へ支払う金額と頂戴するマージンを含めた細かな見積りを提示します。一方で仕事を依頼するライターの方々に対しても、出版社から頂く金額、弊社が頂くマージンを示した上で、稿料を提示します。
 「手の内を明かす」のは、何もお金に限った話ではありません。弊社が持つ「スキル」や「実績」、「人脈」等についても、包み隠さずにお伝えします。無理に背伸びしたり、見栄をはったりすれば、いずれ多大な迷惑をかけるに違いありません。そして、できる事ならば、パートナーである出版社やライターの方々にも手の内を明かしていただき、互いの実情を理解しながら、仕事をしていきたいと考えております。そうすれば、完成する作品や商品も、きっと質の高いものになるのではないでしょうか。

〔2003.6.1 弊社代表・佐藤明彦〕